膨乳にまつわる話

File: 091020

少年:「ねえタニア。またお話を聞かせて欲しいんだ」

タニア:「 ええ、もちろん構わないわ。そこに座って・・・。 さあ、何のお話がいいかしら」

 まだ日差しがある午後の時間。少年は、いつもいろいろな話をしてくれるタニアの家を訪れていた。こぎれいな装飾の椅子に腰掛け、樫の木であつらえたテーブルに視線を落としていた。保護剤のニスが、柔らかいガラスみたいに窓の空を映している。

少年:「・・・あの、なんで、その、お・・・おっぱいが、その、大きくなっちゃう・・・とか、の、お話が・・・その・・・ききたいんだけど」

 少年は恥かしそうに言う。戸棚から紅茶の瓶をとりだしていたタニアは 「えぇっ」と、一度すっとんきょうな声を上げ振り向いた。少年の顔を見入いって、すぐ口元を緩める。

タニア:「んん〜〜?はいはい、そっかそっか〜。キミもオトコノコってことね。まったくもうもう・・・」

少年:「ち、ちがうよタニア、僕、もっとこの世界のことを、もっと知らないといけないと思って……その……誤解しないで」

 うつむいて、消え入るような声で話す少年。もじもじと自分の手を弄ぶ。耳まで赤くなっているのが良くわかる。

タニア:「はいはい、まぁ、良いでしょう。解かったわ。じゃぁ、お話してあげましょう……。はい、どうぞ」

 タニアは二つのティーカップをテーブルに置いた。自分のと、少年の分。少年は嬉しそうに顔を上げる。タニアが椅子に座る瞬間、彼女の長いスカートのスリットから、ちらりとタニアの太ももが見えた。まるでこの紅茶の色みたいな、綺麗な褐色の肌。少年は一瞬見とれながら熱い紅茶を、やけどをしないように口へとすすった。一口飲んだ瞬間、少年のにやけ顔は、ぎゅっとしかめる。

少年:「……んぐぅっ!タニアっ、これ、お砂糖が入ってないよ」

タニア:「あらあら、お子ちゃまには、今日のオハナシはできなくてよ?」

 少年はうぐっと言葉を呑んだ。真剣な顔になり、平然を装った。もう一度紅茶をすすり、ティーカップを置く。そしてタニアの話が始まるのをまった。少年の頬の裏では、苦味がぐるぐると渦を巻いて、唾液を完全にふき取ってしまったみたいだ。でも、まったく平気なふりをして、黙ってタニアのことを見ていた。さあ、お話を、と。

タニア:「はい。じゃぁ、そうね、女のバストがとても大きくなってしまうのは一応<膨乳症>という病気として扱われているわ。そのことをよく知るにはまず、獣人支配の時代を知らなくちゃね……」

 タニアは話し始めた。 

 ――今から100年ほど昔のこと。戦乱の時代ね。もう、このころにはいわゆる<獣人支配>の基礎は出来始めていたの。愚かな人間同士の戦いに乗じて、獣人達は女しか残っていない町や村を占領したの。

 獣人達はその勢力を拡大する為に、獣人の数を増やすことにしたわ。捕まえた人間の女達に、たくさん獣人の子を産ませたの。獣人の子供は、ものすごく早いサイクル、そう2週間くらい、で出産まで至るから、一年に何度も何度も女達は獣人の子を孕まされ、出産させられたの。

 キミも知っているように、本来、女というものはね、赤ちゃんが出来ると母乳をあげるために、すこしばかりは胸が大きくなるのよ。ゆっくりゆっくり、時間を掛けて女の体は、赤ちゃんのために準備するの。

 でも、獣人の赤ん坊達は待ってくれないから、いつしか女達の体のサイクルが狂ってしまったのね。どんどんそのサイクルは短くなり、だんだん、孕まされるとすぐにおっぱいが張るようになっちゃった女が現れたの。

 でもね、そうなった女は、獣人たちからとても大事にされたわ。 獣人族に対して貢献的であるということなのね……そう、この頃は獣人族に棄てられてしまったら……力のない女は、ほんとうに生きていけない世の中だったの――

 少年はタニアの整った顔をみながら、熱心に話を聞いていた。少年の乗り出した姿勢が、その興味を裏付けている。タニアはすこし微笑むと、また話し始めた。

 ――そうやって、本格的な獣人支配という時代に入っていくのだけど、やはり沢山獣人の子を産める女は、とても大事に扱われたのね。場合によっては、今よりもよっぽど裕福な暮らしをさせてもらっていた女も居るわ。でも、獣人の子を産めない女は、労働や雑用、本当に奴隷として扱われたの。

 ただここで、最初の間違いがあるの。ほんらいは「獣人の子供を産む」事がもっとも大きな理由であるはずべきなのに、獣人達はその成果……つまり、どの女が何人子供を産んだか、ということはきちんと把握していなかったのよ。どうしたと思う? そう、よりバストの大きくなる女は、それだけ子供を産んでいる、というふうに勝手に解釈したのよ。

 だから、女達は生き残る為に、胸を大きくする必要があったの。いろいろな事をしたけど、もっとも流行したのは、バンブルビーの毒を自分の乳首に注入すること。 胸の中の乳腺が腫れあがって、胸がすごく大きくなるわ。 それは、天然に胸が張るのよりも全然大きくなるの。

 すると、獣人達はその女を、例え妊娠しなくても、とても大事に保護したの。だから女達のなかには、ずっと、自分の乳首に毒を刺し続けた者も居るわ。ただね、このやり方には、大きな問題があったの――


少年:「・・・問題……問題って?」

 タニアはひとくち紅茶を飲むと、ソーサーの上にカップを置いた。しばらく紅茶のゆれる水面を見た後、少年の目を見てにやっとする。それを二回繰り返した。少年はこの場所こそ聞きたいところだといわんばかりに、口を挟まないようにじっとタニアを見つめていた。

 ――問題って言うのはね。毒で胸を大きくしちゃうとね、すごく「感じる」ようになってしまうってことだったの。解かるかな?とにかくね、うーん、まぁ、「とってもきもちよくなる」ってことなの――。

 明らかに少年は理解しているようだが、わざと視線を泳がせている。 タニアには、それが少し可笑しかった。でも、タニアはそれに気がつかないふりをして話し続けた。

 ――そうなっちゃうとね、女はもう、そう、簡単に言えば、もう何もわかんなくなくなっちゃうの。そうねぇ、たとえば、自分の前に居るのが、愛する人なのか、モンスターなのか、ってね。でも、その当時は、それでも生きていくことの方が優先だったから、女達はそうなってしまうその変化を、受け入れるしかなかったのね。

 でも、この「感じてる、気持ちいい状態」にある女の変化は、獣人たちにとってすごく興味深く映ったの。これでよりいっそう、バストの膨らんだ女は大切にされたわ。そんな状況を100年続けるうちにね、女達の体にはそういうヘンな癖みたいなものが埋め込まれてしまった、という訳なのよ。

 そして今の時代。キミもしってのとおり、我らがデイラミ国王様が獣人族をやっつけたわよね。 だから、女達はもう、バストが膨らんでいなくても生きていける世界がやってきたの。 それどころか、バストが膨らんでしまうのはまるで「かつて獣人に媚びていた女」を連想するようになってしまったから、女達は膨乳をすごく恥かしいこととして隠すようになったの。

 だから、ほら、ローブやチュニックもね、膨乳の人用に、胸の部分が伸びる素材のものもあるのよ。でも、それを着ていたら、自分の膨乳症をしらしめているようなものじゃない。だからあまり見かけないけどね。 逆に、わざと胸のキツイ服を選ぶのは、私は膨乳じゃありませんっ、って言っているのと同じで、まぁ、今じゃファッションとして定着しているけど……カッコいいってことなのよ――


少年:「へぇー・・・。でもさ、じゃぁタニア、胸がすごく小さい人も居るよ。ああいうひとは?」

タニア:「えっとね。運良く、発症しない人もいるし、もしくは、由緒正しい家柄の人。獣人支配時代も、獣人に屈することなく生き延びてきた家系の人は、膨乳症とは無縁だわ」

少年:「ふぅん……そうなんだ・・・じゃぁ、胸の小さい人は、上流階級の人なんだね」

タニア:「ふふっ、一概にそうとも言えないけどね。ただ、わざとそういう風に見せたほうがカッコイイ、という流行はあるわね」

 少年は少し顔を上気させつつも、満足げだった。両手でカップを取り、少し温く飲みやすくなった紅茶をすする。砂糖が入っていなかった事を忘れ、もう一度苦味の攻撃を受けてしまう。タニアが笑って、戸棚から砂糖の瓶をとりだすと少年の側に置いてやった。

タニア:「でもね、こういう話は、女達にとってデリケートなことなのよ。あんまり誰にでも聞くもんじゃないわよ?」
少年:「解かってるよ……タニアだけだよ……でもありがとう、すごく面白かった」

タニア:「ふふっ、どういたしまして。でも、キミも年頃ってことかぁ・・・・・・ん?どうしたの?」

 少年はカップを見ながら、下を向いて黙っている。一度顔をあげ、もう一度下を向く。

少年:「あ、あのさ、タニア・・・もうひとつ聞いていいかな」

タニア:「なあに?」

少年:「あのっ、その・・・・・・タニア、タニアはさ、その、おっぱい・・・その・・・おおきく……なる……の……?」

 いよいよ少年は頭部全体まで真っ赤にして、やっとタニアに尋ねた。両手を内ももに挟みこんで、体をもじもじと揺すっている。ははん、聞きたかったことはこれか。タニアは腰をひねり背もたれに片腕をかけた。少年を見下ろすように視線を投げ、にやっと笑う。

タニア:「なになに。キミが興味があるのは、この世界のことなの?それとも……私?」

 タニアは、まるで湯気が出そうなほど恥らっている少年を、からかうように見つめて、微笑んでいた。


-END-


■関連作品 「膨乳する冒険者達」 Monsters&Woman #1

 膨乳症を背負った女達の、みだらなCGとストーリーです。
 (*タニアは出てきません)

(2008/05/24)